企業を譲渡する本当の理由

ここ数年、企業を譲渡したいと相談に来られる社長様が増加しています。

企業を譲渡される決断をする事は非常に大変な事です。
中堅中小企業では、社長にとって会社は人生そのものであり、非常に複雑な心境にあります。

我々は社長様に必ず譲渡の理由をお聞きしますが、本当の理由がわかるまでに時間がかかる場合があります。

【例1】
まだ45歳で、利益も出ているのに会社を譲渡したいとのこと。
「なぜですか?」とお聞きしても、「ちょっと経営に疲れたから」というご返答。
しかし、株価にはこだわっていて、「なんとか2億で譲渡できないだろうか?」とおっしゃる。
打ち解けてからお聞きすると、「両親の会社が破綻しかけているので、自分の会社を譲渡して得たお金で建て直しに入り、救いたい」という事だったりする。

【例2】
働き盛りの60歳で、利益水準、成長率、共に文句が無い企業を譲渡したい、とご相談に来られる。
「なぜ売りたいのですか」とお聞きしても「第2の人生を楽しみたい」としかおっしゃらないが、その割には「急いで欲しい」と要望が強い。
お酒を飲みながら、ゆっくりお話をうかがうと「実は癌が悪化している。社員や顧客、仕入先のことを考えるとなんとか会社を存続させたい。実はあと半年ぐらいしか元気でいてられない」という大きなものを背負いながら、最後の志としてM&Aを考えられておられる方もいらっしゃいました。

【例3】
息子さんが後継ぎで専務取締役になっていて、業績も堅調な会社を売りたいとのご相談。
「息子さんが専務で会社に入っているのにどうしてですか?」とお聞きしても明確な返事がありません。
そのままでは買収を検討する側の企業も、「訴訟など何か隠れた大きな瑕疵があるのではないか?」と不安がるので、二人っきりでお話を聴くと、「息子が後を継ぐ重責に負担を感じてうつになってしまった。息子を救うためには経営から手を引く以外にない」とのご決断でした。

譲渡企業の社長様の大半は、「後継者がいないが、社員の為に会社を存続させたい」という志で相談に来られます。
しかし、上記のように「会社を売却する必然性が無い会社だ。何か隠れた大きな瑕疵があるのでは?」と感じる会社には、人生の大きな荷物を背負われ、苦渋の決断をされた経営者も多くおられます。

我々M&Aをお手伝いする立場の者は、そのような決断をされた経営者の方の期待に沿えるようにしなければならないと、常々緊張感をもって仕事に望んでいます。